2016/03/19

「カラヴァッジョ展」 国立西洋美術館


 
 
 カラヴァッジョの回顧展。こちらもボッティチェリ展と同様、日伊国交樹立150周年を記念して開催された。英語タイトルは、“CARAVAGGIO and His Time: Friends, Rivals and Enemies”。
 カラヴァッジョの作品は11点で、あとは英語タイトルにあるように彼を慕ったりその技法を模倣したり発展させたりした「カラヴァッジェスキ」と呼ばれる追随者たちの諸作品。ここでついに《ナルキッソス》にも会えた。《法悦のマグダラのマリア》は2014年に真筆と認められ、今回が世界初公開。
 展示は、「風俗画:占い、酒場、音楽」「風俗画:五感」「静物」「肖像」「光」「斬首」「聖母と聖人の新たな関係」「エッケ・ホモ」と、ジャンルやテーマごとに章立てされている。カラヴァッジョの作品にみられる特徴が強く印象付けられる構成であった。
 
 カラヴァッジョの作品を一気にこれほど見ることが初めてであったから、まずは彼の作品に面と向かい合うという鑑賞体験が嬉しかった。バロック、瞬間の美、光と影、内面の表出、写実主義…。その画風をあらわすには様々な言葉が用いられ得るのだと思うけれど、実際に目の前にしたことによる圧倒的な迫力は筆舌に尽くしがたい。
 あらたなジャンルである風俗画や静物画はもちろんのこと、案外、彼の特徴を知るには宗教画を見るのがよいのかもしれない。一時代前の宗教画と比べるとその差が歴然となる。最も信仰心の高揚した瞬間を捉え、シャッターを切るように画面に表出する。対抗宗教改革という背景もあり、画家は宗教画の表現方法を刷新したのであった。
 
 個人的に面白かった(というか、笑えた)のは、《トカゲに噛まれた少年》のあとに置かれた、確か「カニに指を挟まれた少年」といったようなタイトルの作品。少年(中年に見えるが)、片方の手が確かにカニに挟まれているのだけれど、もう片方の手でカニを持っていて、これはわざ挟ませているのでは等々と突っ込みを入れたくなる。
 驚愕した顔を連続で配置するのには、しかも二点目に、いかにも二番煎じ的なカラヴァッジェスキの絵を持ってくるというのには、やや悪意を感じてしまった、とまで言ってよいのか分からないけども。
 
 カラヴァッジョと関係ない些細な点で言えば、「斬首」の章のなかに、女性の切断された頭部の絵があったことが印象的であった。マッシモ・スタンツィオーネ《アレクサンドリアの聖カタリナの頭部》。斬首刑に処され殉教した聖女。絵に描かれた生首は、どちらかというと男性のイメージが強いように思っていたが、実際に女性のというのは珍しいらしい。そのこと自体が描かれる者としての女性の役割の限定性を表しているのだろう。
 
 本展覧会は、カラヴァッジョを紹介するコピーのおもしろさが気になってもいた。まず、展覧会の予告の、どこかのメディアが掲載した記事のタイトルにあった「かなりワイルドな天才画家」というもの。これはいったいどういうことだろうと思っていたが、展示を見て納得がいく…ような気がした。カラヴァッジョの作風というだけでなく、彼の性格と人生がまたワイルドなのであった。尊大だし、ナルシストの気はあるし、刀剣の不法所持で捕まったり、最後には殺人も犯した。芸術家には、さして珍しくもないことなのだろうが。
 
 公式のポスターのコピーでは、「ルネサンスを超えた男。」「ローマを熱狂させたロマンチック。」などと、やや妙である。ただ正直、この"妙"さが、カラヴァッジョの絵画に対して覚える、ちょっと間違えると吹き出してしまうような、不思議な特質をあらわしているかもしれない、などと展示を見て勝手に感じていた。

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