2016/02/05

「象徴の幻視とイマージュの遊泳者」ヴァニラ画廊



ヴァニラ画廊の地下室展示、「象徴の幻視とイマージュの遊泳者」。シュレーダー=ゾンネンシュターンと、ハンス・ベルメール、ウニカ・チュルン。

■展示室A:フリードリヒ・シュレーダー=ゾンネンシュターン

 精神病院の入退院を繰り返し、同じ精神病患者の描く姿に触発されたことをきっかけに、自らも40歳を過ぎてから初めて筆を取った。Wikipediaによればゾンネンシュターンはドイツ語の「太陽(Sonne)」と「星(Stern)」の意味であり、みずからを「月の精の画家」と称したという。

 経歴からしても典型的といってよいアウトサイダー・アーティスト。そのような画家の常として曰く言い難い作風であって、作品の感想なども到底一言で言い表せるような類のものではないのだが、特徴的なモティーフとしては、女性身体、特に胸と臀部の過度な強調。飛行機。虹。渦巻。木。蛇。目。牙の揃った口。ソーセージ。動物。などなど。
 謎めいた意味を纏わせた象徴であるか、あるいは無意味な装飾から成っているようにも見えるイラストもあれば、何か物語の一場面を描いたように見える作品もある。もっともその話の脈絡はほとんど掴めない。
 全体を通して特に目に付くものといえば、ハートのモティーフであるかもしれない。彼の作品にはあちこちに多用されているけれども、記号化されて毒気を抜かれたキュートないわゆるハート型(♡)ではなくて、この記号の原型であるとされる心臓やヒップのかたちの生々しい名残がある。あるいは胸とも言えるのかもしれない。少なくとも画家の、女性の身体に対する何かしらのオブセッションのようなものが感じられてしまう。
 体のひとつひとつの部位が歪められ変形され、また各パーツがあちこちに転移しているという点で、ベルメールに見られるような身体のアナグラムに通ずるところがある。時期的にもシュルレアリスムの系統に属するとされるのだろうか。


■ 展示室B:ハンス・ベルメール×ウニカ・チュルン

 ベルメールとウニカの作品。両者の作品が同じ狭い空間に並べられると、どうしてもふたりの関係に思いをめぐらせずにはいられなくなってしまう。

 ベルメールによって撮影されたウニカの写真を見たことはあっても、彼女自身の作品の実物をよく見たのは初めてであるかもしれない。ベルメールに教えられたシュルレアリスティックな方法でこれらの絵を描いたころには、彼女にすでに精神を蝕む病の徴候があったのだろうか。
 数ミリ平方メートルの領域が無数に並ぶ様子はさながら鱗か細胞のようであり、その中に黒点を1つずつ描きこんであるものは、見開いた目玉にも見える。そのような鱗と細胞から構成される不定形の「かたち」は、時にその一部に人の顔を浮かびあがらせていたり、その「かたち」全体が何かの生き物に見えたりもする。
 ウニカは詩や小説も執筆していることでも知られているけれども、ひとつは邦訳もあった。

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 ハンス・ベルメールの作品はロートレアモン『ポエジー』の挿画が中心。描かれた題材は題材であるけれども、いずれもとても穏やかで繊細な、美しい作品。彼の暴力的な人形写真のイメージからはあまり想像がつかないかもしれない。
 ひとつ特に目に留まったのは、少女の横顔が水の中へと溶け込んでゆくような姿を描いた淡い色の絵。ベルメールも、こんなにも感傷的で儚げな絵を描くことがあったのかと少し意外な気もした。

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