2017/01/10

『大妖怪展――土偶から妖怪ウォッチまで』、『伊藤晴雨幽霊画展』江戸東京博物館



 
 
 妖怪の夏、にしようと決めていた――わけではなかったけど、今年は結果的に例年よりも多くの時間、妖怪に想いを巡らせる夏になっていた。それもこの大妖怪展の開催というきっかけが大きかったかもしれない。毎年夏には何らかの妖怪系の展示や雑誌の特集が組まれることは近年特に定番になりつつあるが、その対象としていたのはどちらかといえば比較的もとから「こっち系」が好きな人がほとんどだったのに対して、この大妖怪展と、おそらくこれに合わせてユリイカが思い切り「ニッポンの妖怪文化」と来たのはかなり大きい。ユリイカ、迷わず購入したけれど、京極氏と小松先生のインタビュー、各々の論考も多方面の研究者の方によるもので、文学と美術と民俗学と比較文化…と実に充実している。多様な領域からアプローチが可能な妖怪、本当に愛おしい。永久保存版ではないかしら。
 
 大妖怪展は開催の告知を見てからはずっと楽しみにしていて、ただすでにこれほど多くの場所で語られている「妖怪」を取り上げてどれほどの新奇性が出せるかというところも、テーマが大きすぎるためにどのような切り口で構成し展開していくかどうかも難しい問題だと思うので、正直どれほど期待ができるのかという不安もあった。大体、「大」なんて、みずからハードルをあげるようなことをして…。
 だが良い意味で予想を裏切ってくれた。私自身、妖怪関連の言説をすべて追うことができているわけではまったくないが、ある程度の妖怪好きとしてもこれまで見たことのないような類の絵がいくつもあり満足だった。
 もちろん「大」とつくからにはもっとあらゆる絵画や史料が膨大にあるのが理想だし、あれもないこれもない、というのは見つかるし、最後の妖怪ウォッチは“取って付けた感”しかないし、全体的にかなり駆け足になっている感じは否めないけれど、そもそも妖怪なんていうものを全部網羅することなんて不可能。だからコンパクトという意味で肯定的に捉えてしまって良いのかな。マニアの人からしたら色々と文句はあるのかもしれないが、何か決定的な過不足や偏りをすぐに指摘できるほどに、妖怪に詳しいわけではない…。
 
 
 大妖怪展はメインではあったけれど、もうひとつの今回の大事なお目当てが、伊藤晴雨。まさかあの晴雨と、夏休みファミリー子ども向けの妖怪展を同時開催なんて…と知った時には驚いたけど杞憂でした。言うまでもなく晴雨といえば責め絵、というイメージが定着してしまっているように、私も彼には20禁の和製フェティッシュSM画家、という印象ばかり抱いていた。それはそれで大いによろしくはあるのだが、あれほどに強烈な絵を描く人が、今にも消えいってしまいそうな幽玄の美を表現することのできる画家であったとは知らなかった。案外にも融通の利く人なのだ…。
 けれど、ただの薄ぼんやりとした幽霊の絵、というのとは違って、けしておどろおどろしいわけではないのに、一体一体の幽霊たちは生き生きと(?)していて、どこか凄みを感じさせるところがある。どうも強く惹きつけられてしまった。画集が欲しかったな。
 

 妖怪は、日本人が古くから抱いてきた、異界への恐れ、不安感、また〝身近なもの〟を慈しむ心が造形化されたものです。「百鬼夜行絵巻」(ひゃっきやぎょうえまき)などに描かれた妖怪たちの姿は、一見すると不気味ながら、実に愛らしさにあふれています。

 日本絵画史上、異界の生き物としての「鬼」や「化け物」が登場するのは平安時代の末期、12世紀とされます。たとえば、平安時代末期から鎌倉時代にかけては、邪気を退治する神々を描いた国宝「辟邪絵」(へきじゃえ)や、国宝「六道絵」(ろくどうえ)に地獄の様相があらわされ、鬼が数多く登場します。これらが妖怪誕生のイメージ・ソースとなります。中世に入ると、いよいよ妖怪の登場です。気弱そうで同情を引く顔つきの妖怪が登場する重要文化財「土蜘蛛草紙絵巻」(つちぐもそうしえまき)や、古道具を妖怪化させて物の大切さを説く「付喪神絵巻」(つくもがみえまき)など、親しみやすさが色濃くなります。さらには、コミカルな鬼たちが京を闊歩する室町時代の重要文化財「百鬼夜行絵巻」や、江戸時代では葛飾北斎「百物語」や歌川国芳「相馬の古内裏」(そうまのふるだいり)などの作品が、後世に大きな影響を与えました。

 本展では、古くから日本で愛されてきた妖怪、すなわち〝異界への畏れの形〟の表現の展開を、縄文時代の土偶から、平安・鎌倉時代の地獄絵、中世の絵巻、江戸時代の浮世絵、そして現代の「妖怪ウォッチ」まで、国宝・重要文化財を含む一級の美術品で紹介します。民俗学にかたよりがちだった従来の妖怪展とは一線を画す美術史学からみた〝妖怪展の決定版〟です。 
https://www.edo-tokyo-museum.or.jp/ [2016/09/11]

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