2016/01/03

『無憂宮 SANS SOUCI: 恋月姫人形作品集』

無憂宮 SANS SOUCI: 恋月姫人形作品集 (E´.T.insolite)
恋月姫
河出書房新社
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 彼女らの瞳(開いていようと、閉じていようと)は自分の身体を見るようにと誘いをかけてくるにもかかわらず、観者の視線をその内奥へと貫入させることを断固として拒絶する。行き場を失い宙吊りとなった視線を、逸らす先には肢体に刻まれた無数の関節の切れ間。性器と同等の役割を負ういくつもの裂け目は、これを侵し分断するという暴力的な衝動を喚起させずにはいない。しかし観者の想像の中でどれほど彼女らに対する凌辱の限りが尽くされようとも、ひとつの切れ目も残さぬよう全てをバラバラに寸断しようとも、その頭部も、四肢も、手首や指の一本においてさえも、彼女らが纏う女王の威厳が損われることは決してないだろう。

 その唇は娼婦のように淫靡な艶を放つ一方で、固く閉ざされた蕾の乳房は少女のそれである。肉体の豊満さを見る者に誇る女神でもなく、慎ましやかに羞らいを見せる乙女でもなく。徹底して視線の客体であるのに、一方的な慾望の対象では在り得ないにとどまらず、その慾望を攪乱し見る者に当惑を引き起こす。諸々のアートのジャンルの狭間に位置するような人形という存在を言語化することは甚だ困難なこころみであるけれど、このような在り方の身体が、主に西欧と異なる文脈に存する東洋という場所で、客体としての役割を引き受けてきた女性を中心に好まれているという事実が語るものは大きいと思う。


……

 恋月姫の既刊の写真集と見比べてみる作業もそのうち。少なくとも直感のレベルにおいて、何かしら、違っている、という感覚はある。

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